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2018.11.18

伝える側と受けとる側

 アスレティックトレーナー(以下AT)やテニスコーチとして活動している私にとって、物事を伝える側になる事が多い。受けとる側に如何に分かりやすく伝えるか?!思っている以上にこれが難しい。伝える側の内容が、その人自身の感覚であったり、客観的な事であったりするので、どんなに詳しく細かく説明しても、受け手とのギャップが生じてしまう。

 例えば、ATとして股関節が中に入っている、所謂内股と判断し受け手にそれを伝える。「え?逆にガニ股だと思っていました」と言われる。普通に立っているとき、確かにガニ股なのだが、座る動作や腰を下ろす時など、所謂重心を下げたときに、股関節が中に入ってしまう人であった。その自覚がないのである。外から見れば明らかに股関節は中に入っているのだが。筋肉の張りもそう。触診して、「以前より張りが強いですね」と伝えても、自覚症状がないなんてことも多々。

 テニスコーチとして、フォアハンドを打つとき、顔と身体が先に開いてしまい、ヘッドがうまく回ってこない。球出ししたり、ラリーでのスイングを外から見ている者にとっては一目瞭然なのだが、本人にそれを伝えても、ピンとこない。「サーブの打点が低いよ」「足が動いていないよ」「身体が突っ込みすぎだよ」「重心が下がっていないよ」。コート上で何万回という言葉だが、何万回も言っているという事は、選手にそれが理解として伝わっていないという表れである、と言える。

 伝える側と受け取る側、物事の捉え方に隔たりがあると、相互理解が生まれない。相互理解しないまま物事を進めると、ATとしても、コーチとしても良い仕事ができない。そこでたどり着いた相互理解を深める暫定的な方法が、数値化と見える化である。

 数値化の説得力は強い。体重や体脂肪・筋肉量はその最たる例だ。ダイエットや肉体改造。トレーニングや食事など、己の取り組みが、うまく進んでいるのか?!定期的に体重計や体組成計を図ることで、その答えが出せる。他にも、医療従事者が良く使うペインスケールというものがある。痛みは感覚であるため、他人の痛みの程度を自分の事として感じることはできない。そこでペインスケールは、「今の痛みは、10がとても痛くて、0は全く痛くないと仮定して、0~10のうちどのれくらいですか?!」といった具合に痛みの程度を聞く。医療業界では多くの事象を数値化することで、受け手側がより理解しやすい取り組みをしている。

 テニスでも、以前はスピードガンによる測定くらいしかなかったが、最近ではスイングスピードを比較的簡単に測れるようになってきた。そして何より撮影ツールの進歩は非常にありがたい。昔は8mmカメラをコートにおいて撮影して、家に帰ってちゅるる~とテープを巻き戻ししてから、ケーブルをテレビにつないでやっと再生。みたいな感じでしたが、現代のスマホ・タブレットは本当に重宝する。手軽に撮影できるし、その場で再生もできる。停止やコマ送り、スロー撮影もお手の物。アプリを入れれば、動画解析も簡単にできてしまう時代。

 スイングを撮影して、「自分の思った通りでした」と言った選手を聞いたことがない。それだけ、自分の頭の中にあるスイングイメージと現実に隔たりがあるのだ。外から見ている立場の人間は、客観的に捉えているが、選手は違う。それと同じイメージを持って選手はプレーしていない、と思ってアドバイスをした方が良いだろう。

 この考えは以前から持っていたが、本格的にコーチを始めてから、改めてその事実に直面するケースが増えた。その為、S.A.T.Cでのトレーニングやリハビリでも動画撮影をするケースが増え、選手や患者さんに客観的事実を伝え相互理解を深めております。はちおうじ庭球塾では、アイパッドと三脚をコートにおいて、選手たちに勝手に撮り合いをさせてみてます。自分が気になるスイングや動きを好きな時に撮影し、気の済むまでそれを現場で見る。改善点を頭に叩き込み、そしてまた練習。

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 百聞は一見に如かず、とはよく言ったもので、とりわけジュニア達には言葉だけで伝えるよりも、動画撮影と言葉を合わせることで、理解度が上がっているように感じる。

 まだまだ修正が必要なのだが、ただいまトレーニングや動作・スイング指導を遠隔地でできるようなシステムを構築しています。これも、数値化・見える化の重要性を改めて再確認してから起きた発想でした。具体的に始動出来たら、改めてまたお伝えをさせていただきます!!